マスコミでは、「落語ブーム」とか「お笑いブーム」とか言われる一方、世相的には最近の不景気を反映して、「笑いがないですね」と暗い印象を語る人が多い。雇用の悪化、失業、凶悪犯罪、児童虐待などの事件が絶えない昨今である。笑っているどころではない事件が多すぎる。子供の虐待事件などは特に心が痛む。笑いのない子供たちが増えているのではないか。
私は、自分が講演を頼まれたとき、聴衆の皆さんに訊いてみる。「最近1ヶ月で、爆笑したことがある人は手を挙げて下さい」と。男性(中年以上)では、ほとんど手が挙がらない。1ヶ月を半年、1年と期間を長くとっても、同じ反応である。「ではここ数年ではいかがですか」と訊いてみるが、若干の人に反応が見られる程度である。女性はいかがですかと訊くと、男性よりもはるかに多くの人の手が挙がる。
電車に乗ると、リュックをかついだ高齢者のグループを目にするが、見渡すとほとんどが女性である。女性は元気がよいなと実感する。グループでの談笑では、爆笑する機会も多いと思われる。グループ活動にも消極的な中年以上の男性が暗いということなのであろう。会社で疲れて、テレビを見ても面白くなく、定年後には仲間がいなくてという風になりがちで、爆笑する機会に恵まれることがないのかも知れない。
私は若い人にも訊いてみようと、非常勤で通っている女子大の講義で、女子学生に訊いてみた。多分よく笑っているであろうと推察して、「この1週間に爆笑したことがある人は」と手を挙げてもらうと、ほとんどの学生の手が挙がった。どんな笑いかと数人に訊いてみると、「よく笑うんだけども、中味は思い出せない」という人が多かった。笑いには不思議なところがあって、大いに笑ったことは覚えていても、その内容については思い出せないことが多い。ともあれ、私の印象は、若い人はよく笑っているということである。彼らはテレビの「お笑いバラエティー」を好んでみるし、若いお笑いタレントについても良く知っている。今では、テレビの人気者は、ほとんどがお笑い出身である。「お笑いブーム」は若い人の間にあって、お笑いタレントの名前も知らない中年以上には関係がなさそうだ。
「笑いのない人生なんて考えられない」と言われるように、毎日の生活のなかで、爆笑できる機会があれば、新しい精気が湧いて出て、人生は楽しいものとなるはずである。爆笑は、ある種の感動で、その時の自分(落ち込んでいたり、気分が晴れないでいたり、弾まないでいたり)が飛んでしまい、抜け落ちてしまい、心の底から新しい精気、元気が溢いてくる。その結果、笑う前と笑った後とに変化が起こるわけである。心の中の「気の入れ替え」と言ってもよい。爆笑中にそんな心の変化を自覚することはないが、笑いが過ぎ去った後、「ああ、楽しかった」と思うことができればよいわけだ。これは、心の浄化作用でカタルシスと言える。心の「毒素」が、爆笑によって「浄化」されるわけだ。若い人、子供たちは、この浄化作用が頻繁で元気なのである。とは言え、子供や若い人に爆笑経験のない人が増えてくると未来が心配だ。(2009年12月号)