笑い塾⑦日本笑い学会編『笑いの世紀』の出版

 この欄で一度は触れておきたいと思っていたのが、私が会長をつとめる「日本笑い学会」のことである。設立して、丁度今年の7月で15周年を迎えて、かなり世間に知られる存在になってきたかと思われるが、今でも「お笑い学会」と、「お」をつけて呼ばれるときがある。そんなときは、丁寧に「お笑いも含めて、笑いを幅広く研究する学会なので、「お」がつかない笑い学会なのです」と説明している。15年前に学会を立ち上げたとき、「笑い」という柔らかい語感と「学会」という硬い語感がミスマッチしたのであろうか、「笑い学会を作った」と言うだけで笑われたことがしばしばあった。つまり、笑いなんてものが、研究の対象になるのかという疑問があったのであろう。
 日本笑い学会は、日本で初めて「笑い」をまじめに研究する学会として誕生。世界には「国際ユーモア学会」(International Society for Humor Studies)という国際組織があって、毎年国際会議が開かれ、私も個人の資格で参加している。研究はおくれてスタートしたが、「笑いとユーモア」は人類普遍の研究テーマだという確信を強くしている。
 どんな研究領域にも専門的研究者がいるものであるが、「笑い」の研究となるとそうはいかない。「笑い」は、人間のあらゆる場面に登場し、人間の身体、精神、人間関係、表現活動等に関係しており、笑いの研究は、多様な職種の人々が知恵を出し合って総合的に研究する必要がある。従って、笑い学会は、他のアカデミック学会とはひと味違った「市民参加型」とし、一般市民の方々も「笑いとユーモア」について研究したいという意欲さえあれば、誰でも参加できることになっている。哲学、心理学、社会学、文学、演劇、言語学、医学、生理学、工学などの専門家、それに加えて看護師、教諭、カウンセラー、記者、会社員、主婦、学生などが会員となって、現在1000名を超えるまでになっている。
 そのユニークな「日本笑い学会」が、過去15年に蓄積してきた研究成果を整理して、この8月に『笑いの世紀~日本笑い学会の15年』(創元社)と題した15周年記念の本を出版した。学会誌の『笑い学研究』と隔月刊の『日本笑い学会新聞』に掲載された成果の中から抜粋された論文、エッセイ、インタビュー、講演、シンポジウムの記録など、約40編を選びだしたものである。
 15年間は、研究成果を振り返るのには短い時間であるし、ささやかな研究量でしかないが、記念本の中味をみると、笑いをまさに「総合的に研究」してきたのだなということが分かる。執筆者は会社員、大学の研究者、医師、大学院生、落語家、作家、クラウンなど多様な職種に渡っている。
 「笑いなんて研究の対象になるのか」という不思議な視線を浴びたときから、ともあれ、15年でここまできたとう成果を世に問うてみたかったのである。詳細にご興味があればどうぞお手元に。(A5版ハードカバー、日本笑い学会編『笑いの世紀』、創元社、定価2940円(税込)。(2009年7月号)

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