最近の広告では、「笑顔」の文字が目立つようになった。会社もサービスも笑顔を強調し、「笑顔のある職場」「笑顔でありがとう」「笑顔が待っている」など、まるで「笑顔キャンペーン」のような感じすらある。笑顔は、先ずあなたを歓迎していますという意味を伝えるし、笑顔で迎え入れられたら気持ちがよい。笑顔のある空間は明るいし、開放的な感じがする。しかし、なかには「職場マナー」として、仕方なく笑顔を作っているという人もいるかも知れない。人との挨拶では、まず笑顔は欠かせない。しかし、ケイタイでの交信は、大体が挨拶抜きである。笑顔マークを入れても、現実の笑顔とは大違いである。挨拶に笑顔を忘れてしまう風潮が出てきたので、広告にも笑顔を強調するコピーが増えてきたのかもしれない。
日本笑い学会(会員1100名)では、毎年7月に年次総会をするのだが、今年は仙台の東北大学で7月11日(土)と12日(日)に行った。研究発表が20本、ポスター部門が5本、シンポジウムは「教育と笑い」がテーマ、記念講演が東北大教授の仁平義明氏による「心の回復力とユーモア」についてであった。笑い学会が他の学会と違うところは、真面目な研究発表の最中でも笑いが起こるというところではなかろうか。客席の反応が敏感なのである。難しい発表でも笑いがあると最後まで聴いてしまうから不思議である。
シンポジウムは、宮城県の現場の先生方が集まっての議論であったが、小学校の校長をされていた先生の報告が一番印象に残った。かなり荒れていた小学校で「学級崩壊」とか「モンスター・ペアレント」などが取りざたされていた時に、校長に就任。教室を、学校をいかにして建て直すかに奮闘されるが、ある方針を立て、信念をもってそれをやり通して学校を変えたという話であった。その方針とは「笑顔いっぱい!元気いっぱい!勉強いっぱい!」で、これを事あるごとに叫んで生徒を巻き込んでいったという。最初の「笑顔いっぱい!」もそんなに簡単ではなく、毎朝校長が校門に立って、「笑顔いっぱい!」を叫んで挨拶をすることから始めたそうだ。教室の授業でも大声で「笑顔いっぱい!元気いっぱい!勉強いっぱい!」を笑顔いっぱいで語りかけたという。もちろん、他の先生も同調し、全生徒が「笑顔いっぱい!元気いっぱい!勉強いっぱい!」に巻き込まれ、学校全体が見事に変わっていったという。
「笑顔いっぱい!」なら誰でもが言えたかもしれないが、それに「元気いっぱい!」と「勉強いっぱい!」をくっつけ、一言にまとめ上げ、覚えやすいフレーズにしたところがすごい。当然実践の苦労はあったであろうが、語呂のよい一語が全生徒を巻き込んでいったのは見事と感心した。
笑顔がいっぱいであれば、無理に笑顔を作りだしたとしても心に笑顔を引っ張り出してくれるエネルギーが湧いて、それが元気エネルギーとなる。それが発散して他者のエネルギーと共鳴すると、一層大きなエネルギーとなる。子供達が元気いっぱいの明るい空気を生み出せば、勉強にも「がんばるぞ!」とやる気が生まれるわけだ。(2009年9月)