笑い塾⑬まちづくりに笑いの「輪」と「和」

 去る2月17日、愛媛県新居浜市の「笑いサミット」という催しに参加してきた。今年が第3回目で、「笑って元気なまちづくり」というのがテーマであった。主催は新居浜市であるが、日本笑い学会四国支部が共催で手伝いにまわっていた。3部構成で、1部は私が「いのちに元気をつける笑いの力」という演題で講演。2部は、落語の実演で、四国支部長の芸乃虎や志さん(実は財団新居浜病院副院長で精神科の医師 枝廣篤昌さん)とその弟子の芸乃鵜飼さん(実は病院に勤務 安達友貴さん)の二人。3部は、地域の自治会や老人クラブ、社会福祉協議会の会長さんらによるパネルディスカッションで「笑いによるまちづくり」が話し合われた。
 市民の関心は会を重ねるごとに高まって、いつもなら市民文化センターの中ホール(約450名収容)になるのだが、申し込みが多くて大ホール(約700名収容)に切り替えられての催しとなった。
 私が特に注目したのは、2部の落語公演と3部の地域代表者によるパネルディスカッションの組み合わせであった。落語で市民に笑ってもらう場を地域に増やし、しかし落語だけが目的なのではなくて、地域の課題を同時に語り合う場にしていくという試みである。集会に落語が入ることで、これまで集会に顔を出さなかった人々が訪れ、落語で笑うことによって、場が打ちとけて話しやすくなり、集まりがよくなったという報告があった。落語会ではない、「落語で笑ってのまちづくり」と言ったらよいのであろうか。
 集会に落語を入れるというが、誰が落語を演じるのか。下手な素人落語では人は笑いもしないし、退屈するだけである。ところがこの新居浜市では、素人が演じて、聴衆を笑わせる。それだけの技量をもった素人落語集団が組織されているのである。新居浜市までプロの落語家を招く費用もなし、では自分たちでということから始まったのであろう。これが驚きである。
 落語集団のリーダーが、精神科の医師の芸乃虎や志さんで、彼は愛媛大学医学部の卒業だが、学生時代に落語をやっていて、本業に就いてからも稽古に励んで、今では、「全日本社会人落語選手権大阪本選」の年度優秀賞をとる程の芸の持ち主である。プロの上手に匹敵する腕前で、その彼が落語好きの人を集めて、人前で演じられるまで稽古をつけているのである。弟子ということになるが、現在8人が稽古に励んでいるという。市民に笑ってもらう機会をつくるために「新居浜で落語を聴く会」を主宰し、時々落語会も開く。
芸乃虎や志さんは、精神科の医師でありながら人々を笑わせる術を心得て、パネルディスカッションの司会も担当、地域の課題を論じながら笑いの輪をうまく作っていくのに感心させられた。当意即妙のユーモアを発するというのは、とても難しいことだが、笑いの「輪」が広がると、そこには自ずと「和」ができる。
 地域では、さまざま市民の団体活動が行われているが、芸乃虎や志さん達の落語集団が単に落語の紹介に終わるのではなく、地域に笑いの「輪」と「和」を作り出していることに感銘を受けた。(2010年4月号)

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